中国ビジネス、要は「人と人とのつながり」

                                 姫田小夏

中国人の国民感情を動かした佐藤充さんの存在意義

 

宮城県女川町で水産会社を経営する佐藤さんが、20人の研修生を救助したと言うニュース、ご記憶にある方も多いのではないでしょうか。

 

地震発生直後、津波を警戒し、20人の中国人研修生を高台に避難させた後、家族を捜しに戻った佐藤さんは津波に呑み込まれて帰らぬ人となってしまいました。

 

中国でもこのニュースが新聞やテレビ、ネット媒体でも伝えられました。中国の中央テレビは321日、佐藤さんの特集番組を放送。上海の「東方早報」でも翌日佐藤さんの記事を取り上げました。

 

中国語も少し話せたという佐藤さんは、「中国人研修生を大切にする経営者」としても知られていたようです。

 

日本がらみの話題には、ふだんは舌鋒激辛の中国人ですが、このニュースだけは例外でした。多くの中国国民が、こんなふうにネットに書き込んでいました。

 

「もし報道が本当なら、この日本人に敬礼したい」

 

「尊敬的佐藤先生、私たちは忘れません。奥さんとお子さんの冥福をお祈りします」

 

「感動した、実は日本人の多くはやっぱり善良だったんだ」

 

「日本の地震を喜ぶ連中にはビンタだ」

 

「民族と歴史を越えて感謝します」―――

 

日中友好の看板を掲げ、どれだけ予算を投じてイベントをやろうが、プロモーション活動をしようが、ぴくりともしなかった中国人の国民感情。日本人への印象は、戦時中のイメージを現代にも引きずったまま、長いこと現代の日本人像への修正を加えることが困難でした。

 

それがこれほどプラスイメージにふれたという意味では、ひとつのエポックメイキングになるだろうと筆者は受け止めています。

 

「やらせ」でもない、「何かを加えた、脚色した」ものでない、現地を撮影した映像がひたすら繰り返し放映された結果の、国民がたどりついた、これもまた偽りのない感情なのだと思います。

 

この、中国国民の日本人に対するイメージが変わったことがどれほどの意味を持つことなのか、一般の日本人にはなかなか伝わりづらいと思いますが、少なくとも中国ビジネスに長く携わる方には、この意義がおわかりになると思います。

 

しかもこれまで、怖がられ、なかなか尊敬の眼を向けてもらえなかった現地で働く日本人からすると、そのビジネス環境は好転したとも言えるでしょう。ひいてはこれが日本企業の中国ビジネスに少なからずプラスの影響を与えるだろうと受け止めています。

 

「佐藤さん」は彼一人のことではありません。たくさんの日本人総経理のなかに「佐藤さん魂」が存在します。従業員を大切にする日本人トップがいる会社において、ストライキが発生する可能性はより低いとも聞きます。中国とは、社内の制度構築以上に、「人と人とのかかわり」が大きくものをいう世界であることは忘れてはならないと思います。