震災が与えた日中ビジネスへの影響

                               姫田小夏

安心・安全のシンボル「日本食品」の上海市場における今後

 

本食品の空前のブームに沸く上海では、日本食品の売り場の拡大が進んでいる。

 

特に非日系資本の動きは興味深い。カルフール古北店(フランス資本)はもちろんのこと、これ以外にもテイスト(香港資本)、シティショップ(中国資本)、OLE(中国国営資本)、美羅城(中国とシンガポールの合弁)が加わった。さらに伊勢丹がデパ地下の拡充に乗り出し、高島屋も開業の準備を着々と進めている。

 

日本食品はビジネスになる――と受け止めたことの証左でもある。

もともと日本食品の販売は、上海に乗り込んできた日本人が日本人駐在員を当て込んで始めたビジネスだった。醤油や味噌、鮮魚など日本人の「あったらいいな」の品ぞろえが年々充実していくのは、在住する日本人にとっては何よりの楽しみだった。「あそこで○○が手に入る。あの店には××が置いてある・・・」と日本人主婦の話題の中心を占めたのも、もっぱらこの日本食品だった。

 

日本人の間の口コミは中国人にも飛び火した。「日本人の評価する商品」に中国人富裕層らも群がった。

 

中国人の間に日本食品が浸透していくのは、久光百貨店のデパ地下を見れば一目瞭然だ。2004年の開店当時は在住の日本人や香港・台湾人が主な客層を占めたが、ここ数年で客の6割を中国人が占めるようになったという。「おいしいものなら多少高くてもいい」と地元上海の消費者も手に取るようになったのだ。

 

背景には粉ミルク事件や毒餃子事件など、中国食品メーカー企業への不信感や、所得向上とともにもたらされる安心、安全、高機能のニーズなどがある。

 

昨年9月の尖閣問題を発端に、10月には反日デモや不買運動などが高まり、一時的に日本食品の販売も打撃を受けたが、それでも安心・安全信仰に支えられ、業績を伸ばしてきた。

 

久光百貨のデパ地下にある「魚屋しんせん館」では2010年の売上高は前年比180%増。好調は今年に入っても続き、22日はサーモンの刺身6500パックを売り切るという過去最高新記録を出した。

 

一方、模様眺めにすぎなかった日本の経営者も、対中輸出に積極的になってきた。これまでは、「うちはまだまだ大丈夫」と思っていた経営者も、いよいよ日本市場の縮小を危惧するようになり、なんとか中国市場を取り込もうと前向きな取り組みが進んでいた。

 

こうした需要と供給がマッチし、上海市場はまさに「日本食品、いま盛なり」の様相を呈していたのである。

 

先行き不透明ではあるが

 

しかし、今回の地震と放射能漏れ事故の打撃は大きい。

 

315日、中国国家品質監督検査検疫総局は、空港や港からの放射性物質の流入をめぐり、各地方の検疫当局で放射線量の測定に乗り出した。また、中国国家品質監督検査検疫総局は25日までに、福島第1原発事故による放射性物質の漏えいを受け、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県で生産された一部食品(乳製品や野菜、果物、水産品)の輸入禁止を発表した。最近は、口頭ベースだが上海市工商行政局から日本から輸入した食品は販売しないようにとの通達があったという。

 

売り場にも影響が出た。

 

GLジャパンプラザでは店舗の一部のスペースを自治体の物産販売に貸し出しているが、セールスプロモーションに一番熱心だった福島県がやられてしまった。同県は麺類や酒、飲用水などを販売していたがもはやそれどころではなくなってしまった。人気の「青森県のりんご」に追い付け追い越せで、富山県もりんごを売り始めていたが、これも出鼻をくじかれる格好となってしまった。石川県も特産のイカを高級食材として輸出しようとしていたが、今後の継続が危ぶまれている。

 今回はまさに風評とともに日本の安全神話を覆すことにもなり、現地の日本人経営者らは頭を抱えている。せっかく盛り上がった日中の食のビジネスだが、まったく先の見通しが立たない状況になってしまった。

 

とはいえ、上海の「地元メーカーによる食品は安全か」というと決してそうではない。「裏では何をしているかわからない」という市民の疑念は払拭されていないからだ。

 

日本と中国の生産者の違いを比較するなら、「消費者を騙さない」というモラルでは俄然、日本の生産者に軍配が上がる。日本の食品の価値、安心・安全に加えて「生産者の正直さ」が再評価されてもいいだろう。

 

風評も一種のデマだ。中国人も「塩の買い占め劇」では、自らがデマに弱い体質であるということを露呈してしまった。中国の消費者は、日本の食品はすべて危険なのかどうかをもう一度冷静に見極める必要がある。売り手側も、悲観的になる前に、客観的なデータを与え消費者を納得させる販売努力を重ねてみてはどうだろうか。