中国で売ることの難しさ サービス業の底上げを妨げているものとは

                                 姫田小夏

最近私が関心を持った本に「中国の大衆消費社会-市場経済化と消費者行動-」というのがあります。04年に出版されたのでデータとしては古くなってしまっていますが、大衆消費市場としての中国を考察する上では今に至っても大変貴重な資料です。

 

その中に「中国においては、中華人民共和国成立後の1950年から1978年まで、生活に密接に関連している商業は軽視され、従来の国有商業企業は経営の自主権を持たず、国家から割り当てられた生産物を販売するだけであった。当然、製品が市場で売れているかどうか、消費者が満足しているかどうか、といったことは調査どころか関心さえ持たれなかった」というくだりがあります。

 

多くの企業が中国市場で日本ブランドの販売にチャレンジしていますが、苦労話が絶えないのは、すべて中国がこの「商業は軽視されている」土壌であることに起因しているというわけなのでしょう。

 

日本ブランドを中国の棚に陳列しただけでは売れないのは当たり前、そもそも商品力のみならず、売るための工夫や努力が必要になるわけですが、これを支えるのはすべて人。販売員が育つか育たないかはその先の展開を大きく左右します。ひいては上海市のサービス業の底上げをもたらすか否かにもかかってきます。

 

人材流出の原因はお給料

 

64日のチャイナビズフォーラムでは、中国でのキャラクタービジネスにおいては大変経験豊富な島田ともこさんをお招きしました。ショップアドバイザーという立場から、実体験に基づく「販売にまつわるあれこれ」をお話頂いたのですが、やはり「販売員を育てるのは大変」とおっしゃっていました。

 

「人材流出というのはたいていモメ事を起こして退社するというもの、そのモメ事の多くが、会社は自分たち販売員の苦労を全く理解しようとせず、また人材育成の意識が非常に希薄で、「働きたい人はたくさんいる」という考え方で、ちっとも自分達と向き合ってくれない、ひいては『給料を上げてくれない』ことが原因になるのです」(島田さん)

 

今年4月、上海市の最低月収ラインが1260元に引き上げられましたが、彼女たちショップに立つ販売員の基本給は1500元程度と低いもの。「そもそも販売員の社会的地位はこの中国では低いものになっているのです」と島田さんも指摘します。

 

売れると見込んで製造した商品が、初期の段階で予想を下回ったことからとったこんな手が意外にも有効だったとか。

 

「これ1個売ったら10元あげると言ったら、喜々として頑張ったんです」

 

一番単純で、一番効果のある方法が奏功したのも、彼女たちが置かれた背景があるからこそ、というわけです。

 

上海では出身地が左右する

 

さて上海では、販売員として、あるいはサービス業を担う人材として、いい人材に出くわしても、採用に至らないことがあります。人事担当者は出身地を見るのです。

 

上海では「あなたどこの出身?」という質問の、回答如何では採用されないケースが存在します。百貨店によっては「上海人しか雇わない」というところもあり、歴然とした出身地による差別が存在します。「逃げられたら最後、中国は広くて捕まえることができない」という防犯上、安全上の理由からだとも言われています。

 

残念ながら、これが上海市におけるサービス業の底上げを妨げているような気もします。私なんかはむしろ「サービス業は人当たりのいい安徽省出身者などに任せられたらいいのに」と思うのですが。

 

日本と中国の思惑のズレ

 

また、「売る」というひとつの目的からは、日本と中国の思惑のズレというのも見えてきます。

 

島田さんは「店舗の通路幅」をめぐっての攻防でこんな体験しています。

 

「私たち日本側はお客さんにとってよりよい買い物環境を重視して、通路幅を0.814メートル確保できるようにしています。けれども、中国側のパートナーはお客さんが買い物しやすいかより、出来るだけたくさん商品を置いて、坪効率を上げたいとしか考えていません。結果、店舗全体に棚をキツキツにレイアウトしてしまう・・・」

 

日本本社は「なぜ我々の要求がわからないのか」と納得しません。「そんなんじゃ落ち着いて買い物なんてできないよ」と。

 

けれども、中国側のパートナーが譲らないにもワケがあるのです。

 

「背景には中国の百貨店は『入店させてやる』という大名商売がまかり通っているんですね。だから、『通路幅?冗談じゃない!』『もっと売りまくれ』と一蹴されてしまうのです。逆にこちらが折れなければ、別のブランドに店舗を譲ることになってしまうのです」

 

島田さんの役割は、このようにして日本本社と中国の代理店のギャップを埋めることもでもあったようです。

 

さて一方で、売上げの坪効率を妨げているものは、異常なほどの不動産賃料。この異常な賃料が悪循環をもたらしています。中国は今この「箱」を持っている者による大名商売が続いており、肝心なサービスは一番後回しになっているのです。

 

先日、ものつくり大学の田中正知教授と話していましたが、氏曰く「本当のサービスが提供できるのは、ものが売れなくなったとき、つまり『下り坂』に入ってからなのだ」。言い得て妙なり。中国のサービス業の底上げ、多少の痛みを伴わない限り、その抜本的な改善には至らないというわけです。