移民現象をめぐる「安住の地はどこにあるのか?」

                                姫田小夏

中国人の友人Sさんは昨年日本に帰化をした。その後は滞在日数を気にすることなく自由に国境を越え、日本での静かな生活を楽しみながら、上海の商売の様子を見に行くという往復が続いていた。

 ところがつい先日、こんな台詞を耳にした。「最近、上海に帰るのが嫌になってね」と言うのだ。

 

そのひとつの理由に「商売やりづらくなった」というのがある。彼らは今、中国の外地で飲食業を営んでいるが、その商売には明らかに翳りが見えているというのだ。

 

18%の営業税を工面するのが本当に困難。原材料、テナント料、人件費払った後は殆んど何も残らない」とSさん。

 

テナント料は1.5倍も暴騰し、人件費も最低賃金引き上げにより高騰、インフレで食品価格も跳ね上がり、すべてのコストが見合わなくなった。さらに営業税の高さが経営を圧迫、税率を下げてもらうには賄賂を贈るしかない。

 

今、中国は合理を著しく逸脱している――というのが、Sさんと私の共通した認識だった。

 

帰化したSさんはまだいい、いざとなれば中国の商売をたたむこともできる。

 

昨年、北京で出会ったタクシーの運転手が言っていた、「外国に住めるならどこでもいい、チャンスあらば何処へでも」の言葉は今でも鮮明だ。

 

「あの頃はよかった」とたった5、6年前を懐かしく振り返る中国人もいる。「2000年中まではまともに機能していた」と嘆く人もいる。

 

「以前の生活よりはマシになった」とは喜んでいたその生活も、今は不安を口にする一般市民が増えたように感じる。

 

不安というのは、「この先一体幸せになれるのかどうか」という自問自答に、自信を持って「そうだ」とは言い切れなくなったことにある。08年の北京オリンピック、2010年の上海万博と国のイベントが目白押し、かつてあれだけ未来に自信を持っていたはずの中国人が、ふと我に返ったのだ。

 

「高い経済成長遂げても、楽にならざる我が暮らし」に不安感に転じたのだと思う。そして祖国の将来に対しては楽観的ではいられなくなった。「この先どうなる」――

 

613日、広州で大規模な暴動が発生したが、出稼ぎの露天商を摘発しようとした警官ともめたことが発端だと伝えられている。

 

露天商摘発は中国至る所で見られる光景だが、それを目にするたびに「明日喰えるかどうかの人間をいじめてどうする、もっと取れるところから取れ!」とも思う。

 

中国の招商銀行とベイン&カンパニーが「2011中国私人財富報告」を発表したが、2010年中国の資産総額1000万元以上の富裕層は50万人で、前年比22%の増加。さらに資産総額1億元以上の金持ちは2万人もいる。個人財産を全部合わせる34兆元にもなる。

 

そんな彼らもまた「移民」として国外脱出を考える背景には、「このままここにいたら市民の袋だたきに遭う」という危惧感もある。政権交代で人脈が途絶えれば、これまで築いた富も地位もご破算になるという危機感をも背負っている。

 

昨今の移民ブームは、持てる者も、持たざる者も、「安住の地はどこにあるのか」に直面していることを示唆しているのではないだろうか。