燃え上がる、上海ベーカリー戦争

                               姫田小夏

上海のベーカリーショップに立ち寄ってはあれこれとつまみぐいをしている。今話題の「85C」( HYPERLINK "http://www.85cafe.asia/" http://www.85cafe.asia/)は台湾資本。コーヒーやその他飲料も同時に買える店で、場所によってはカフェも併設されている。

 

この店は種類の豊富さと魅力的な価格が売り。中心価格帯は5元(1元=約125円、625円)程度で、3元(約375円)から商品がある。昨今、ベーカリーのパンも「110元」をつける時代、店内の清潔感はもとより「おいしくて安い、そしておしゃれ」が人気を集めている。

 

また、飲料をもテイクアウトできるというのもミソ。上海では日本のように自販機文化が発達していないので、「飲み物販売チャネルの開拓」はより重視されるべきマーケットだ。

 

「焼きたてパン」を「選んで食べる」という食習慣はまだ数年前に始まったばかりで、市場はまだ開拓の余地に溢れている。上海市場はほぼ台湾系が支配しているが、韓国系、シンガポール系も元気だ。

 

Paris Bakery」は韓国資本のおしゃれなベーカリーショップ。「パリバケ」の愛称で親しまれ、古北新区に店を構えて以来、たちどころに上海での店舗展開を成功させている。

 

大寧店(1号線、延長路駅)レジではトレイ山盛りにパンを積み上げて、185元(約2300円)の大枚をはたくおばさんや、合計97元分のパンを買っていくOLを目撃した。こちらではドカ買いが目につくのだ。

 

近くにはシンガポール資本の「Bred Talk」もある(ここの「印度南餅」は私のお気に入りでもあるが、今年1元値上がりして8元になった)が、このエリアでの軍配は今のところ、韓国系のパリバケに上がっている。

 

台湾系のベーカリーショップは、前述した「85度C」も含め、この市場で圧倒的な強さを見せる。台湾系の「クリスティーン餅屋」(餅というのは小麦粉を平らにして焼き上げたものの総称)が進出、今では地下鉄各駅に出店するという一大チェーンに発展した。ケーキに力を入れる「ichido」もすっかり愛されるブランドになった。

 

もちろん、日本のベーカリーショップもある。日本から進出している山崎パンは確かにパンの味は一流。しかも商品開発能力はこの上海市場でも群を抜いている。一口三明治(一口サンド)は10元、明太子法国(ペーストが乗ったフランスパンの意味)は7元、巧克力圏(チョコリングドーナツ)6元と、ついつい手が伸びてしまう品揃え。いつ行ってもレジ前の行列は消えることがない。

 

日系ベーカリーはそれぞれにいろんなエピソードを持っていて、そのチャレンジと奮闘には脱帽するのだが、その商圏は広域をカバーしているとは言い難い。

 

昨今は再び中国進出に熱い視線が向けられ、日本企業が続々と上海に出てきているようだが、上海の日本人マーケットを当て込んだビジネスも少なくない。10万人もいればそれなりに市場は見込めるも、「日本人は金持ちだから」というのは大きな誤解だ。日本人相手に「一気に200元のお買い上げ」を狙うのはなかなか難しい。

 

さて、上海にまだベーカリーと呼べる店がなかった90年代後半、定年退職した日本人のおじさんが上海の日本人を相手に店を立ち上げた。「できたてのあんぱんを日本人に食べて欲しい」という気持ちからだった。

 

このおじさんのパンは当時話題にはなったものの、2000年代中盤以降、その名前は次第に聞こえなくなってしまった。おじさんの高齢化もあったが、賃料が猛烈に上昇しはじめた当時、パン1つを売ったところで、出した利益はすべてテナント料に吸収されてしまうためでもあった。

 

「5元、6元のパンを1つ2つ売ったところで商売にならないんですよ」――そんなふうに漏らしていたのを思い出す。

 

上海では、消費者が好む味も違えば、その買い方も異なる。つくることへのこだわりだけではなく、どう売るかを考えれば、日本勢ももう少しいけそうな気がするのだが。