「やってらんないよ、こんな仕事!」 物価上昇と賃金据え置きのはざまで

                                       姫田小夏

「永和大王」といえば中国ファストフードの元祖。経済発展の黎明期から「豆乳と油条(小麦粉を油で揚げたもの)なら、永和大王だ」と庶民にとって手軽に胃袋を満たせる空間でもあった。

 

今や全国200カ所に店舗網を広げ、メニューも丼モノから麺類に至るまで豊富になった。競争が激しくなってくるなかで、豆乳だけ売っていればいいという時代はすっかり過去のものとなった。

 

一方、インフレが直撃する上海社会で、「単品なら9元(1元=約12円)~、ドリンク付きのセットメニューなら15元~」の維持はもはや限界だ。それは従業員の態度を見ていればよくわかる。

 

「低賃金の労働に不満タラタラ」ではあるが、かといってこのパートを手放せるほど暮らしは楽ではない。昨今の物価高ならなおさらパートにでも出ない限りには家計が苦しい・・・そんな実情が手に取るようにわかるのだ。

 

出会い頭に去っていく客が「40分も待たせるなんて!」と捨て台詞を吐いた。どこがファストフードなのかと言わんばかりだ。

 

一方、パートタイマーの50代のおばさんは「やってらんないよ、こんな仕事!」とブリブリと文句を言いながらトレイを運ぶ。朝から階段の上り下りに辟易している様子だ。

 

だが、やる気のなさは階段の上り下りではない。その根本には、「こんな安い時給で働かせて」というマグマの如く煮えたぎる不満がある。

 

客と従業員が醸し出す不穏な空気を感じたので、私は「テイクアウト、どれだけ待つの?」と事前に尋ねた。「8分でできる」と言うことだったので、おとなしく待つことにした。

 

ところが案の定、来ない。注意散漫なおばさんが運んでくるのは他人のオーダーばかり。20分待ったが来ないので、厨房に脚を運ぶと、そこには、客のオーダーやテイクアウトの品が山積みだった。

 

やる気のない従業員、待たされる客、そして打撃を受ける経営。天下の「永和大王」ですらこのような有様なのだ。しかし、それは氷山の一角、上海社会全体にこの悪循環が蔓延していることは否定できない。

 

「物価は上がっても給料は上がらない」はいまどきの労働者の合い言葉、誰もがこの物価高に直面しながら、「いかに賃金に見合った働きをするか」に知恵を絞る。なるべく楽して、なるべくトラブルにはかかわらずして、と見て見ぬ振りを決め込む。もともと勤勉とは言えなかった彼女たちの、労働の質がさらに下がる。

 

昨晩、上海の宿泊先での管理人のおばさんたちをなじったことを反省した。なじったのは、毎年同じ過ちを繰り返し、まったく進歩がないことにホトホトと呆れたからだ。

 

「しっかり管理してよ、給料もらってんでしょ」

 

確かに彼女の仕事ぶりは決して褒められたものではない。だが考えてみれば月収2000元程度のおばさんに期待するのが間違いというものだ。

 

問題が指摘されながらも、臭いものに蓋、すべてをぼかして曖昧になあなあで処理しようとするのは、それ以上深追いしても何ら自分の得にはならないことを知る、彼女たちならではの処世術だったのだ。