尾を引く反日、タクシーは気まずい空間

                                  姫田小夏

先日、後部ドアにデカデカと「釣魚島是中国的!」のステッカーを貼るタクシーを見かけた。タクシー待ちの列にすべりこむが、運悪く乗り込んだのが子連れの日本人。見るからに家族は「中国初めて」の装い、素人だけにケンカに発展することはないだろうが、こうしたタクシーは見送った方が賢明だ。

 

上海のタクシー運転手は生活に不満を抱える層に属し、なおかつ日本人の一番近いところにいる。上海のタクシーは日本人にとってしばらくは緊張を強いられる空間となるだろう。

 

今日は虹橋機場賓館で集まりがあった。その後、姫田はここからタクシーに乗り込むが、運転手は案の定あの質問を振り向けてきた。

 

「おまえは中国人か、日本人か?」

 

「日本人だよ、あんた日本人が嫌いなんでしょ」と聞いてやった。すると「日本人はファシストだから嫌いだ。侵略したから嫌いだ」という。

 

ムリもない。中国のテレビは連日、日本の黒服を着たヤクザの画像を流し、「これが日本の右翼だ」、「日本は右翼だ」と刷り込んでいるのだ。

 

「じゃあ、あんたは私もファシストだと思うのか。日本人は嫌いだというが、私があんたにどんな悪いことをしたことがあるのか」と尋ねた。

 

ついでにこうも言った。「私はテレビも新聞も信じない。自分の眼で見たものしか信じない。中国に来て自分の眼で見れば、悪い奴もいるがいい奴もいることがわかる。あんたも自分の眼で判断してみてよ。あんたの後ろに座っている日本人がファシストの悪党なのかどうか」

 

そんな会話をしていると、だんだん運転手の態度は変わってきた。

 

「そうだよな、我々民間がいつも損をしているんだ。それは中国も日本も同じなんだよな。政府は腐敗だらけで、そういう奴らが仕掛ける戦争で民間が損をする、そうだ、悪いのは中国共産党だ。いつになったら我々に民主が到来するんだ!」

 

本音はそこである。日本=ファシストの悪党というのは所詮仮の形の不満に過ぎない。

 

姫田はついでにこんな話もした。

 

「日本の企業は今、中国から撤退するかどうかを真剣に考えている。でも、最後に彼らの決断を覆すのは、投資した金の回収なんかじゃない、『残された中国人従業員はどうするか』なんだよ。中小企業の経営者には、中国人従業員を本当の家族だと思って大事にしている人もいる。彼らを失業させてはいけないと、踏みとどまる日本人経営者もいるんだ」

 

運転手からの反論はもはやなかった。目的地に着くまで無言だった。

 

彼らはただ単純で、日本を知らないだけなのである。無垢な一般庶民は逆に言えばピュアなのである。だから姫田は布教を諦めない。話せばわかる相手だから。