上海、美魔女たちとバレエと下心

                               姫田 小夏

上海でも「バレエが趣味」というセレブな奥様たちが増えている。日本でも黒木瞳さん主演のテレビドラマがきっかけで、“ママさんバレエ(バレーではない)”の爆発的なブームが到来した。

 

中国人セレブのバレエの楽しみ、まさしくそれは「すてきな王子様との出会い」にある。バレエ教室の善し悪しを決めるのは「男老師」(ナンラオシ、男性教師)」の有無。イケメン老師がいるかどうかは、上海美魔女のやる気を大いに左右する。

 

「今日の先生はガッコイイ。来週からこの先生のクラスにしよっと!」

 

日本のバレエファンからすると、動機が不純過ぎ。日本人はたとえビギナーでも、「一にレッスン、二にレッスン」の、このバレエ界の厳しさを心得ており、「男性目当て」にお稽古場を選ぶなんてことはほとんど耳にしたことはない。

 

「わざわざこんな遠くに来なくても、あなたの家のそばには××というお教室があるじゃない?」と私がいうと、「そうなのよ、××はまさにうちの隣なのよ。でも、先生が好みじゃないのよね~」と悪びれもせず言う。

 

彼女の贔屓は私も知っている。山東省出身のJ老師だ。彼は非常にストイックで、女性に媚びない。その近づきがたさが「王子様度」を引き上げるのだろう。彼のレッスン時にはバーに生徒が鈴なりになる。

 

ある日、私がトウシューズのレッスン中に脚をすべらせたことがあった。するとこの「王子様先生」は、音楽を止めて「どうした!?」と駆けつけた。その後、私はこのクラスに行けなくなった。

 

レッスン直後、更衣室では嫉妬の嵐。「あの先生が、音楽を止めてまで駆けつけるなんて、よっぽど気に入っているのよ」「あたしたちにはしないわよねえ」とコソコソと“上海語”で噂し合う。万事がこの調子だから非常にやりづらい。

 

彼女たちは無言に王子様先生にアピールする。ある女性はスケスケのレオタード、ある女性は日本の80年代を彷彿とさせる超ハイレグ・・・。年の頃40代の上海美魔女たちの、ささやかな挑発である。

 

こうした追っかけ程度ならまだかわいい。だが、恐ろしいことに彼女たちは、上海バレエ団から「好みの男性」を自分たちで選り抜いてきて、彼のレッスンを独占してしまう、という愚挙に出た。

 

つまりお好みの王子様を囲い込むのだ。これを愚挙とするかどうかは議論の余地があるものの、なるほど、金さえあればなんでもできるのがこの上海だと実感した。しかし、一歩間違えば“ユヅル君クラス”のダンサーを囲っている可能性もあるわけで、そこは油断ならない。

 

高級車でスタジオに乗り付け、札束でお好みのダンサーを囲い込む。バレエと言っても美容体操の域を出ない彼女たちの自己研鑽のなさも考慮に入れれば、それはやはり愚行であり、またバレエに対する冒涜であると言わざるを得ない。

 

最後に“更衣室での失望”も付け加えたい。それは彼女たちの裏返った下着だ。公衆の面前という羞恥心もなく、脱ぎっぱなしにされた衣類が積み上がる。なぜ、彼女たちは畳まないのだろう、人目に晒すことに恥じらいはないのだろうか。せめてもバッグにしまってほしい。この惨状を見たとき、女性としてのつつしみなしに美を追究する彼女たちの姿が非常に滑稽に思えた。